今日は三連休明けの火曜日。しっかりスタートダッシュが切れたと思われる。ただし今日やったのはあるアメリカ物理学会の雑誌の論文をレビューしてレポートを書いたところ。これに関しては前にも英語か日本語で書いた気がするが、レビューした原稿は雑誌に載せないほうが良いというレポートを書いた。内容はここには書くことができないが、どういうことを考えていたかは少し書くことはできるかもしれない。
この原稿は基本的には著者らが高分解能中性子粉末回折実験及びラマン散乱実験によってある物質の結晶構造を詳細に調べたことの報告である。この物質群はマルチフェロイクスの分野ではとても有名な物質で応用も期待されていたが今のところ実際の応用にはいろいろと問題があるとされる。著者らは室温よりも高いところで結晶構造が何度か転移していることを突き止めている。温度で分けて4相に分かれているが一番温度が低いところではスーパー空間群を使って記述される非整合構造となっており、温度を上げていくと非整合構造と整合構造が共存している相、さらに温度を上げて非整合相がなくなっていくがまだ2相が共存している状態。さらに温度をあげると一相の整合相が現れる。よく研究されているとは思うし、中性子散乱自体は難しくなさそうだが、ラマン散乱実験がどれくらい難しいかわからないが、データはたくさん取られている印象がある。
しかしながら、一回目のリーディングから印象は同じで、一体に何がしたいのがわからないので非常に読みづらい論文となっていた。まず今調べようとしている物質に対してどのような研究背景があってどのような問題がのこされているか?そして今回はどの問題にどういったアプローチをしようとしているのか文章から伝わってこなかった。ただの構造解析ならば構造解析専門の論文に書けばよい。物理の論文ならばどのような物理があるかが見たかったが結局私は原稿から読み取れなかった。またエディターへのレターにもなぜこの論文を公表すべきかと書いてあったがあまり物理のことは書いてなく、この研究はおよそ10年前の理論研究を完全にサポートするものだと書いてあった?そしたらなぜこの研究が必要なの?と思ったが理論を裏付ける実験研究だとしたら理解できるが、実際にそのようにあたらしい構造が理論的に予測出来て実験的に確認できたその後にそれらの発見から一体何が議論できるのか?というところに全く文章が書かれていなかった。したがって物理の議論が全く見られないのでこの原稿はその雑誌に載せるべきではないという結論に達してレポートを書いた。
今回の研究では確かに新たな情報として構造解析結果が詳細に温度変化を調べられていて構造変化のエビデンスも見えている。しかしながら新しい結晶構造だと特定できたとしてそれが今までどう違うのか?もっと言えばどのような問題の不解決だった物理が新しい構造によって理解されなおされるのか?もしかしたらきちんと記述されていたのかもしれないが少なくとも私には伝わらなかった。新しい情報は有用だがそれ以上ではないなと思った。物理の論文として読んでいたからか著者の細かな議論は正直それは技術的に細かい部分であまり長い文章を書いてほしくなくてその新しい構造を使って一体何がわかったのか?が知りたかったが長い論文で一向にそれが出てこなかった。
正直このレポートについてEditorがどう感じるかわからないがいつもよりかなり短いレポートとなった。まあ僕が分野を理解していないだけなのかもしれないが、とにかく論文がわからなかったのでしょうがない(僕だけか?)。できるだけのことはしたかなと思う。
いずれにせよ。論文の査読をお願いされることは嬉しい。お願いされた雑誌も権威がある雑誌なのでコミュニティに貢献するという意味で役に立てているという実感もあるしお願いされる機会も増えてきた。今のところ一回のレビューに一週間ほど費やしている。これは自分の年間仕事量の2パーセント程度を一回のレビューに費やしていることになる。これについては少しづつでも短くしていきたいし、何よりも自分の論文を出すことが一番大事だ。一方で他人の論文を丁寧に読むことによって物理を深く知ることができるし、もっとわかりたいという欲求が出てくる。そして論文を読むことで自分の論文はどうするべきかと考える良い機会になる。だから自分が他人の論文を読みながら良いところと悪いところをしっかり考えて自分の論文はより良いものにしたい。なので論文を査読することは好きである。コツコツと普段の勉強や研究をしながら査読も積極的にこなしてきたい。そしてこれから自分の研究にしっかり時間をかける。自分の研究をしてしっかり成果を挙げることが一番大事だ。自分の研究のクオリティがあがることによって他人への査読のクオリティも上がってくる。物理をきちんと基礎から最先端まで勉強しながら新しい分野を切り開いていけるように日々精進していこうと思った次第である。