僕がこの本を手に取ったきっかけはあるYoutube上の本著者へのインタビューからこの本を知った。彼はフジテレビ在職中からいろいろとテレビのためにヒットコンテンツを企画をしてきてその後独立してもヒットコンテンツを作り続けている人である。Youtubeの『お金の学びば!』も彼が携わっていたと初めて知った。分野は違えども私は実験プロポーザルやグラントプロポーザルを書き続けている身である。そしてもっとより良くそして多くの研究プロポーザルを書きたいしもっとより良くそして多くの研究プロポーザルに参加してより良い研究結果をたくさん残していきたいと常々考えている。この本は読むべき本と一瞬でわかった。私自身は研究プロポーザルを書く身でもあるし、たくさん研究プロポーザルを受け付けて判断する身でもある。研究プロポーザルは彼のいうところの企画であるがこの本からは一度では吸収できないほどのアイデアが入っていてこれから何度も読んで自分の研究に役に立てていくことと思う。この本の内容に関しては自分の研究に当てはめて考えてしまって読んでいたので著者の思うところと違ってしまっていたら誠に申し訳ないが、本の内容のレビューとしてはこの投稿は役に立たないとは思う。ご注意してお読みいただければ。
『決める』だけで企画になる
ということが最初の方に書かれていてこれはなるほどと思った。企画では何をするのかしないのか決めることである。そして『企画』の最終目的はなにか?ということに対して僕の答えは明確である。それは論文を出すことである。著者とは目的が違うと思うが、僕はこれにすべて変換している。僕は実験プロポーザルやグラントプロポーザルなどを書き続けているしこれからも書き続けるがゴールは新しい知識を生み出しそれを共有することである。費用対効果として見えづらいが、研究をした結果新しい知見が得られなければならない。そしてそれを論文にしてほぼ無料の形で共有できる状態にしておくところまでが仕事である。
『企画するひと』が足りていない
というところにも共感した。科学者は基本的には研究を企画できる人しか残っていない。勉強ができて優秀な人で物事の理解がはやくたくさんの情報を吸収できる人でも、自分で現状のあらゆる知識をかき集めてまだわからないことをあぶりだしそしてまだわからないことがわかると何が良いのか意義を見出し、未踏の領域の新しい知識を作り出す能力があるかどうかはまた別の話。たまに研究始めたてのひとでもたくさん実験する人が成果を挙げたりする人もいるがとにかく企画をたくさん出せる人はすごい。科学の世界では企画することも結構難しいかもしれないが、むしろ最終目的にたどり着くことも難しいと感じる。これは企画も同じか。科学の場合は最終目的にたどり着くと科学の場合は自然と次の企画は出てくる。なぜならあることがわかるとわからないことがわからないことが必ずでてくるからだ。これはカントが純粋理性批判で言っていたように理性は終わりがないからだ。
『いい企画』を出すにはヒット作品には目を通しておくとよい。
ということに納得した。自分は物理学者としてはちょっと斜に構えていてはやりのものに追随しないという傾向がある。それはなぜか?というと自分の能力が高くないからだ。新しいサイエンスが出てきたときにそれを最速で終えるのはやはり超優秀な人たち。世界中そういう人たちが寄ってたかってシステマティックに関連知識を整えていく。そこで争ったらやっていけないのだ。でも一方でしっかりと今はやっている研究を勉強しておくことは重要だと思った。なぜ良いと思われる研究なのか?なぜ皆が着目して高い熱量で取り組む問題なのか?自分もたくさんの実験プロポーザルや論文を読んで判断する立場なので常々考えて自分の研究にフィードバックしていきたい。
『企画』をストックすれば天才を装える。『企画』書の形にして残しておく。たくさん『企画』をしておく
これにはすごく共感してしまう。研究の場合はとにかくいろんな研究をしておくのが良い。どれが大きく当たるかはわからない。2021年のノーベル物理学賞は気候変動の地球物理といわれる分野で取られていたが、まさに研究されていた当時これが着目されることになるとは夢にも思われなかっただろう。そして研究者として企画書として残しておくということが本当に大事だと思っている。研究の場合はアイデアがあってそれに対してこれまでの研究背景があってこれまでわかっていることはどこまででどこに問題があってそれに対してどのようなアプローチをとっていくか?さらにそのアプローチに対して実際に実験計画や計算をして結果を予測しておく必要がある。それにより企画を実行することにより明らかになるだろうことまでを書いておく必要がある。そうしておくとふとしたとき学生や他の研究者に話題があがった時にこういう企画があるんだけど実行してみないと提案することができ実際にプロジェクトが進む。そうでなければ絵に描いた餅。僕の場合は2-3枚の英文の企画書にしておくか。背景までグラフにまとめたパワーポイントを作っておく。ただこれはやるべきとわかっていても時間のある作業であり、日常の業務を先にこなしてしまう。企画書の形で置いておかないとすぐにアイデアも企画もすたれてしまい。いつかしたいことになってしまう。良い企画などは存在しないのだからたくさん企画して、企画書として残しておいて、それにいろいろなパターンをストックしておくということは大事であるなとおもう。
その後、本の100ページくらいからはその企画のパターンがところどころ書いてあってこれはシステマティックには書いてないが信じられないほどたくさんの情報量が詰まっていたと思う。
例えば、ペルソナ、既視感を使うこと、主語を置き換えること、企画と無関係の世界観の土台を築く、ダジャレを使う、パワーワードを使う、主語を逆転させる、ランキングシステム、ライバルのような比較対象をもつ、とりあえずくくるなどなど。
とにかく企画を立ててそれから派生させてたくさんの企画を作るのにこういったテクニックは役に立つのだなと思った。この本は大変参考になった。ビジネスの世界でたくさん企画をされている人はこうやって発想を広げているのだなと思ったし、とても情報量が多い部分であった。たとえばパワ―ワードを使うっていうのは物理学世界だと皆が知っているような言葉だったりはやりの言葉だったりする。例えば量子何とか?とか最近だとトポロジカルなんとか?カイラリティとかは上のいくつかの要素を含んでいると思われる。ランキングシステムというのも面白かった。なになにランキング題してカウントダウンをしていくだけで企画として成立する。例えば僕は本のレビューをこうして書いているがもしストックがたまってきたらもっとも読まれている僕のレビューランキングとして新たにブログが書けるというようなことかな?とりあえずくくるっていうのも科学ではよく使われることである性質を持っている物質を並べてみたり、元素で物質を並べてみたり、結晶構造で物質を並べて比較してみたり。ある物質を調べつくしたら元素を置換して同じ研究手法を適用して系統的に体系的な知識を構築していったりする。ライバルのような比較対象を作るっていうのも僕が最もやっていたことで自分の装置は世界に比較できるものが10ほどあるがそれと比較して性能やサイエンスなど相手を研究したり、彼らの研究の質や分野を研究するだけでも私ができることがほぼ無限に出てくる。あそこには負けたくないって思えることでいろんあサイエンスに出会う機会が増える。
また企画に対して『人が理屈抜きに興味を抱く不変的な要素』お金、食、性(モテ)、ナショナリズム。というのは参考になった。物理学ではあまり役に立たないところだが、世の中の企画というものが大抵これらに結びついているのだなと実感した。モテる何とかとか?世界が羨むなんとかな日本とか?なんとかで大儲け?食フェア?とかいろいろあるものなと思った。
自分の企画を歴史にする。
この部分は少しわかりづらかった。著者は自分の記憶や学びが『経験』か 『歴史』かを判断しておかないと結果的に自分の企画の二番煎じばかりになるということを述べていた。自分がやった研究や企画でもその中でも普遍的に通じるものを考えてみて突き詰めてみるの?物理の場合は問題解決の方法とか、いくつかの自分がやってきた研究で普遍的に言えることはなにか? 科学の問題でも哲学や倫理の問題でも自分が書いた論文で普遍的に革新的だったところはどこか問い直してみるのも良いかもしれない。
企画は世の中に出してこそ価値がでる。
これこそまさにそうアイデアだけではなくて企画書にしておく。そしてそれを誰かに提案する必要があるし、できれば実験して、できれば解析して、それをいろんな人と議論したり、プレゼンしたり、共同研究したり、そして論文にしておくのが一番大事。世の中に出しておかないと誰も見ないし誰もその生み出した知識を使わない。
二人で会議する。
というのも大事だなと思った。差しで飲んだり、ミーティングするということは相手に向かい合うことであり、3人だったりそれ以上の人にプレゼンするよりもお互いにとって濃厚なミーティングになり、企画をきちんと伝える必要があるし、フィードバックもしっかりと来る。大事なミーティングだと思った。
企画は腐る。失敗した企画はさっさと忘れる。好きな企画を選ぶ。
重要なこと。企画をしたらなるべく走り出しておかないと時代と共に時間ともに腐っていく。そして失敗した企画なんて誰も覚えていない。研究をしていてダメな実験結果になって自分自身はへこむことがたくさんあるし、恥ずかしいこともたくさんあるが、どうせ人の失敗なんて誰も覚えていない。成功して論文となっているものだけが評価されるのだから失敗した企画なんて忘れよう。分析なんていらない。あとは好きな企画を選ぶというのも大事、選ぶ基準は大切だが、好きな研究・楽しそうな研究と自分が感じている研究をやらないとモチベーションに差が出てきて最後のところ論文にできるまでのやり切る力に差が出てくる。やはり自分が心底やりたい研究でないと大変な研究を続けていくことはできない。
企画力とはシステムである。インプット力、結び付け力、多産力、巻き込み力、やり切る力の5つに分解できる。
なるほど。よくわかった。ここもそれぞれ自分がプロポーザルを書いていくうえで自分でよりよいプロポーザルや論文を書いていくうえでこれらの力をあげていくことは重要に思った。
できることに制限されてしまう実験物理学者
として最後に自分に対して注意点を足しておきたい。よく理論物理学は何を研究するか自由に決められるという。数学者も似たようなものかもしれない。なぜなら紙とペンだけで研究を完成させられるタイプの研究があるから。実験物理学者の場合は自分の装置でできることを意識してしまいがちだ。そこにはやるべきこともたくさんあるが、いつの間にかそれでできることを研究対象に選んでしまう傾向がある。自分の装置でできることは人に頼らずできるし。特に僕の様に装置を管理しながら研究しているとそういう傾向が出てくるかもしれない。なのでいつもたくさん企画して自分の創造力を超えた研究身に携わって、自分のできることを狭めないようにたくさんの人とたくさんサイエンスをしていって自分の研究のすそ野を常に広げていきたいと思う。自分でプロポーザルを書いて書きたい論文は山ほどあり一生楽しんで書き続けていくような科学者になっていこうと思う。