私がPhDを取り日本を離れたのは2012年の3月末である。アメリカではじめて正式にお金を稼いで研究者のキャリアを始めてきたわけだが、その後オーストラリアに住みながら台湾の研究所のために働いてきて日本が停滞をずっと見て気がする。しかしもう停滞どころではなくこの10年で見ると相対的凋落でしかない。日本人はゆでガエルの様になっていると誰か言っていたが本当にそうなってしまった。もう個人の努力ではどうにもこうにもならないところまで来たと思う。
今年の年末はオーストラリアのシドニーでステイケーションをする予定で先ほどホテルを予約した。新しく建設されたCROWNのTowersというところであるが、一泊(食事優待と朝食付き)1239ドル=約10万4000円ほど(2021年11月5日のレート)。正直最高のスイートという部屋ではないがそれでもこれくらいの金額はする。東京の日本資本の最高峰ランクの老舗高級ホテル御三家(帝国ホテル、ホテルニューオータニ、ホテルオークラ)で3-6万円というところだろうか。。もちろん予約の仕方とかにもよるが。例えばニューオータニのZenというハイグレードな部屋もあるがそれでも10万はしない。こういったときに日本は本当に安い国に凋落したのだと実感する。本書にも書いてあるが為替レートも関係ない。日本だけが安くなっている。
おそらく僕の様に海外の先進国に滞在している人間でまた時々日本に帰ってくるようなひとにとって本書が書いていることは当たり前のことでしかない。知識として得るものはあまりなかったと思う。例えばディズニーランドの入場料が世界で最安値でも日本人はきつく感じているとかダイソーが100円なのは日本だけとか、ステルス値上げに、IT人材の給料が破格に安いなど。なにせどの人材の給料も安い。アニメの技術者も買いたたかれている。優秀な人材も外資系や海外の現地企業に引き抜かれている。物も安い。ニセコも安いし、不動産も安い、美術館の入場料まで安い。逆に日本人が安いなって思っていける海外旅行先も無くなってきただろうと思う。日本だけが凋落している。
なぜそうなっているのかはわかっている。賃金が上がっていないからだ。なぜ賃金があがっていないか?それは労働生産性があがっていないから。じゃあどうすればいいかという話になるが、それが簡単にわかれば苦労しないし、皆が克服するように行動してくれれば苦労はない。本書は正直に言うとそこにはあまり踏み込んでいない。なので本書への評価は高くない。何人かの専門家の意見は聞いてい入るが個人が行動できるような提案はない。日本が安くなった。皆の賃金が安いというばかりでは正直何も変わらない。日本人の生活が厳しくなっているのは日本に住んで働いている日本人が感じていることだろうと思う。
本書の内容ではないが、僕が着目しているのは2つのことである。
1つは最低賃金を今より早いスピードであげていくこと(今は年3%くらいだが年5%程度のスピードで)で経営者にプレッシャーを与えていくこと。なぜ最低賃金をあげていくことが大事かというと最低賃金で働いている人がとても増えているし多くいること。その人たちが余裕をもって消費できるようにしていかないと消費が伸びていかないことである。すでに給料が高い人をもっと上げてもそう人の総数も少ないし消費には回らない。なので特定の仕事や年齢などの層に着目して生産性をあげるように指導する政策でなく、最低賃金が上がっていくことによりすべての業種で上がるような政策を実行すべき。生産性の弾くサービス業などの特に経営者は従業員を安く使うのではなく賢く使わないといけないくなる。もちろん経営者は反対してくるだろうが、労働生産性をあげ賃金をあげるのは経営者の仕事なのだ。このまえNewspicksで経営者が話し合っていたがDXだったりなんだり言っていたがそれが生産性をあげていますか?と聞きたい。社員教育、新しい技術に投資、DXでも自動化でもハンコ廃止でもそれは生産性をあげる手段でしかない。それらは企業として稼ぐ力を強化していますか?我々個人にできることはこの最低賃金をあげる動きをサポートすることである。なのでコロナ禍で一度最低賃金が上がらなかった年があるがコロナ禍でもそうでなくても賃金は年3%以上はあげていかないといけない。アメリカでは年2パーセントのインフレだが、賃金上昇は年3%。
もう一つはそして政府、企業、個人が投資をしていくこと。政府はきちんと教育や研究に投資をしていくこと、企業は従業員のスキルや技術に投資していく、またM&Aなどにより会社の規模を大きくして生産性をあげる。個人は国内外の株式を始めリスクを取って投資をしていくこと。特に個人でできることは投資をしてさらに多くの人が会社やビジネスを見る目を養いさらに経営者にプレシャーを与えていくしかない。また投資によりキャピタルゲインやインカムゲインを得ることは実質働く時間を増やさずに収入が増えるので労働生産性は個人レベルであがる。さらに株などを勉強することでビジネスや経営への教養もあがる。日本は政府も企業も個人も人的資本に投資をしない。つまりお金を出して勉強しない。またリスクを取って投資をしない。そんなことで豊かになれるはずがない。