准教授昇進を審査して学んだこと②

前回(https://www.shinichiroyano.com/2022/01/12/准教授昇進を審査して学んだこと①/)では主に手続きや渡された書類などを書いてきた。ここでは具体的に見ていこうと思う。統計数1なので参考程度に読んでくださればと思う。私が評価するに彼の貢献はいかの4つにまとめられると思う。それは論文数、研究費獲得数、研究室施設立ち上げ、育てたPhDの学生数である。そのほかにも論文の査読数、研究会をどれくらいオーガナイズしたか、プロポーザルをレビューしたこともあるが。ここでは上の4つが重要だと判断した。

著者の学歴と職歴を簡単にいうと、修士課程までは中国、PhDはドイツで取得、その後1年ほどドイツで研究された後、アメリカで2年、フランスで3年、スペインで1年ほど過ごした後、およそ6年ほど前に中国に戻ってきている。年齢で言うとおそらく僕の5−6歳くらい上だろう。飛び級とかがあったら分からないが。正直、准教授になるには少し遅いかなと思ったが、これはおそらく欧米から帰ってきて中国の大学に勤め始めたのが5年前くらいなので准教授になるにはある程度大学にいて昇進の資格を得る必要があったのかもしれない。例えば5年とかは大学で働いていなければならないとか。

まずは論文だがすべての論文で大体110本くらい書かれている。この数は多いと思う。正直、後5年たったところで自分はこの論文数には達することができないだろう。実際にどのような論文でどこに書かれたものかどうかはチェックしていないが多いと思う。また本人が重要な仕事をしたと思われる筆頭著書で34本、責任著書で43本書かれていてこれもはるかに自分よりも多い。今のペースだと彼のグループから毎年10-15の論文が出ていくことだろうと思う。ここは正直に今のままではこのスピードには追い付かないと思うのでもしこのレベルに達したければいろいろと自分はいろいろと戦略は考えないといけないだろう。まずは真面目に論文を一つ一つ書いて増やしていくしかない。一方で彼と自分のプロファイルを比較するとまだ自分は成長期になっていてサイテーションはコツコツと毎年伸びている。したがって現時点であまり量は比較せずに次の5年でこの上昇トレンドを維持して筆頭著書と責任著書の論文を少なくとも一年に一つづつはコツコツと増やしていきたい。結局論文を書こうというありきたりな結論だが重要だと思う。先日はオーストラリアで年配の研究者と議論していたがとにかく論文を書いたほうがよいと言われたし科学者で一番重要なことは論文をかくことだと毎日言い聞かせても足りないくらいだ。とにかく原稿に毎日向き合っていこうと思う。さらに、彼の業績でほかに気になったのは特許も書かれていることで、これについては銀行からファンドをもらったり賞をもらっている。こういった応用までやり企業とのコラボレーションをしているところはかなり良いと思った。私もこういうことができるようにアンテナを張っては行きたい。

次に研究費獲得数だが現在の大学に移られてから日本円にして大体8億円ほど得ている。5年で8億円だから相当すごい気がするが、どうなんだろう。研究資金源としてはざっと理解したところでは地方政府、大学、国からの戦略的資金などのようだ。これは環境の違いもあると思われるが、今日本でこれくらいの予算をもらえている実験系のひとがいるのかどうか全く想像できない。これを踏まえても金額はどうのこうのよりもきちんとグラントを出して取っていくということが大事だと思った。グラントはきちんと機会があれば申請して自分が何をやりたいか主張して人に認められるというプロセスで少しづつ理解をえられるものでダメでも勉強して書きづつけていかないといけない。私は今はグラントをもらえているが、これまでの姿勢はよくなかった気がする。グラントを書き続けてやはりお金を使うべきアイデアを出し実際に社会に良い方向にお金を使ってインフラを整えていくという視点をもって挑戦し続けたいと思った。

そこでこれらの資金の使い道だが、報告書を見る限りこれらの資金を使って彼は3つの研究室を立ち上げている。一つは単結晶育成室、物性測定室、そしてラボレベルのX線散乱実験室。これらをゼロベースで立ち上げており、すくなくとも単結晶育成室はかなり高水準の研究室になっている。この3つの研究室で基本的な測定はできて新しい物質さえできれば十分これらの研究室からのデータで論文は書けそうだ。だいたい5-6年位でこれら3つの研究室を立ち上げて運用しているので素晴らしい成果だと思うし、これらが立ち上がったことにより大学内で十分に研究も進む。大学の資金を使いながらも外部資金を調達して質の高い研究室を作っていく姿勢は素晴らしく、大学としてもこれら研究室は良い研究資産となると思われるので大学への貢献度も高いと私は感じた。

こういう風に見ると優秀な先生にこれくらいの資金を投入するというのはスタートアップに先行投資しているようなものと同じだ。果たして日本ではこれくらいの投資を科学コミュニティがどのレベルでもやっていない気がする。まあ超優秀な人は日本でも40才から45歳まででこれくらいもらっているのだろうか?逆に日本のことを調べていなかったのでこれからいろいろと聞いてみたい。コメントいただけると幸いである。

次に重要だと思ったのは育てたもしくは育てている学生数である。PhDの学生に絞ると3人がすでに卒業、もうすぐ卒業する予定なのが1名、来年の卒業予定が3名、そのほか7名が現在彼のもとで指導を受けている。たった5-6年でここまで拡大している。この数は今の日本とか先進国ではあまり考えられる数ではない。この国特有のことでもあると思う一方で彼の研究所は今国家主導で行われてる新たな研究プラットフォームを作る計画の一部としてもとらえられているため最近PhDの学生が一気に増えたのかもしれないとおもう。個人的には彼のグループの学生と研究をしていてもかなり優秀だと感じた。仕事も早いし議論もキチンとできる。日本人の博士課程の学生を見ることもあるが少しタイプが違う優秀さである。

その他獲得したとかオーガナイズした学会とかあるが僕が評価したいなと思ったのはメインで上の四つ。さて自分がこれをできるかっていうと条件が異なってくるが、一方で目指すべき方向というものは頂いた気もするしはっきりとわかりやすい目指すべき数字みたいなのもわかった気がする。やはり研究者はまず論文で論文をしっかり出すこれに尽きる。さらに自分の状況に置き換えると、そのほかには装置運営、グラントを申請し続けてできれば取る、学生を含めたユーザーベースを育てるというありきたりだがこれらの方向性がはっきり見えてきたところである。今回は大変勉強になった。

准教授昇進を審査して学んだこと①

今回はある国のある大学の准教授の昇進について評価委員を仰せつかってそれについて英語で一万字ほどのレポートを書かせていただいた。つい先ほど所属機関のテンプレートで英語で定型の推薦書の形に文章を整え、自分のサインを入れて担当者にメールで送ったところ。ここでは今回学んだことをまとめておこうと思う。正直に思うことは准教授になるっていうことはそれほど甘くないなっていうこと。これに比べたら日本で准教授になるの超簡単じゃない?とも思えてくる(実際にはそうではない)。研究者として生きている国にもよると思うし分野によると思うし一概には言えないが。やはり名のある大学できちんと教授をしているということはすごいことなのだなと思った。

まずどのように選ばれたのかだが、これは私が候補者から依頼を受けて推薦書を執筆してほしいのと、私を評価委員のメンバーの候補に入れていいか?と聞かれたところに始まった。候補者は共著論文のない18名から推薦書を集める必要があり、この評価委員は大学によってえらばれた12人が書くレポートにより、候補者の昇進が妥当かどうか評価されるということのようだ。この時点ですでに大変そうだと思ったのが正直なところである。

その後大学によりその評価委員のメンバーに選ばれたため、評価をお願いできないかとメールが来た。その際、以下の点について主に評価をしてほしいと言われる。それを1カ月半ほどの猶予をもらえるのでレポートを書いてくれということだった。いやらしい話、それをやってくれれば170USD(2万円弱ほど)の報酬を頂けるということだった。

候補者の業績についてのレポートは以下を中心にまとめてほしいとのこと。原文は英語であるが日本語に直すと以下のような感じ。

  1. 評価者と候補者の関係についてご説明ください。
  2. 候補者の研究業績を分析しコメントいただきたい。候補者の研究水準が特に書いてきた論文の数や質において国際的な研究水準や基準値を満たしているか?どうかを中心に評価をお願いいたします。
  3. 候補者がこれまで行ってきた研究がその研究分野に対してどういうインパクトを与えてきたか?またこれからどういったインパクトを与えていくことが期待されるかについてご意見をお願いいたします。
  4. 同じキャリアステージにいる同じ分野の研究者と比較して候補者の研究業績をどのように評価しますか?
  5. 候補者の研究業績であれば、貴方の所属機関ではどれくらい可能性で昇進が認められるのでしょうか?

以下の5つの資料が参考にするものとして準備されていた。

  1. 大学が準備したと思われる候補者の履歴書
  2. 候補者自身が準備した研究歴
  3. 候補者の研究業績の客観的データ
  4. 候補者の代表的な論文五篇
  5. 教育構成自己資料

1は候補者が入力したものだと思われるが、大学のフォーマットで彼の履歴書がまとめられていた。この1と2はほとんど同じ内容。。2は候補者が自らまとめたもののようで非常に読みやすい。最初は一生懸命1を読んでいたが途中からよくまとめられている2を参考にした。最初からそうしていればよかった。

これら2つの資料には大学入学から現在のキャリアまで詳細に書かれており、彼の受賞歴も細かいところまで書かれていた。この資料に書かれているのは彼の学歴、研究資金獲得歴、論文、受賞歴、大学の授業歴、指導した博士課程学生、代表的な研究業績のまとめなどが記入されていた。

3つ目の資料では論文に関してもう少し客観的なデータ。例えば第一著者でどれくらい書いてあるか?責任著者でどれくらい書いてあるか?論文の総数とかその論文の引用数。また Web of ScienceやGoogle Schalorなども参照して過去10年間くらいの論文数及び引用数がどうなっているか。候補者のプロファイルのリンクまで張ってあってすべてチェックできるようになっていた。

また4は単純に代表的な論文を五つ選ばれていた。最後の5は大学のシラバスも含む候補者の授業で使われてきた資料やコース内容などがまとめられた資料があった。

大体これらをすべて読んてくると彼の貢献度というものがわかってきた。これらを評価して大体一カ月半程度で評価レポートを書いてくれとのこと。英語一万字くらいでまとめ書いた後は所属機関フォーマットのテンプレートで文書を綺麗に見れるように直し、英語の推薦書の定型に形を整えて、自分のサインを入れて提出しました。締め切りの二週間以上前には終えて先ほど提出したところだ。

少し長くなってきたので今日はここら辺で終えて実際にどれくらいの基準で彼は審査を受けていてどのような業績を挙げていたかまとめていきたいと思う。もちろん研究内容や個人がわかるようなことには踏み込みまないつもりだ。ただ、これらをまとめることにより国際社会では准教授という職がなるのがどれくらい難しいものかを知ることになった。私自身は自分もどのような方向でどのレベルで自分の研究を進めていこうかという具体的な指針となったので次回は具体的な論文数やグラント獲得額、育てた学生数なども具体的に書きながらまとめてと思う。